これは、もう13年も前の話。
僕が31才のときの話。
当時の僕は、恋愛経験がほとんどなく、
このまま終わってしまうのかなと心配していた。
だから、たまたま行った飲み屋さんが楽しくなり、
いろんな女性と一緒に飲むことができる夜遊びを始めたんだ。
その頃のお話。
彼女とは、当時いきつけになっていたお店のひとつの
居酒屋で知り合った。
居酒屋といっても、チェーン店ではなく、
マスターがひとりでやっている個人店。
僕がそのお店に行きだして、少したった頃、
彼女が女性だけのグループでやってきた。
そのグループは4人いて、毎回全員がそろう訳じゃないけど、
2人とか3人とかで来ていることが多かった。
彼女はそのグループの中でも、ひときわ目立った。
自然とブランド物の服を着こなしてしまうような人で、
ちょっとかわいい感じな女性。
僕より少し年上なんだけど、話をしていると
どっちが年上なのかわからなくなってしまう。
彼女と話をしていると、楽しくなってしまって、
いつしか、お店で会うとカウンターで一緒に飲むようになっていた。
ただ、お店で会うだけで、それ以外はなし。
だから、飲み友達って関係。
当時の僕は、それまでの友達すらいないオタッキーな生活を
改善しようと、夜遊びのときは、楽しい男とみえるように行動していた。
誰に対しても丁寧で、やさしい。
相手によって態度を変えないが、基本方針だった。
だから、そのお店でも、よっぱらいのおっさんとも仲良く話しをしてた。
ちょっと癖のある人でも、全然気にしないで、楽しく話しをすること。
それが僕のチャレンジだったんだ。
だから、お店の人に喜ばれる客だった。
僕が来ると、お客さん同士、妙に盛り上がる。
それを仕掛けて楽しんでいた。
その中に、彼女もいたんだ。
ただ、彼女に対してだけは、ちょっとだけ態度が違う。
なんていうんだろう、ノリ、ツッコミっていうのかな。
小学生の頃、好きな女の子に意地悪する。
あれに近いものがあるのかな。
ついつい、ちょっかいを出してしまう。
そのちょっかいの中に、「男癖が悪い」っていうのがあった。
本当のことを言うと、そんなこと思っていないんだけど、
美人で楽しい人、その上おしゃれ上手だから、
男ウケがもちろんいい。
だから、男を弄ぶ悪女。
そんな冗談の設定を僕がしていた。
「ねぇ、ゆうちゃん、誰かいい人いない?」
「また、男をペットにしたくなっての?」
「なに言ってんのよ、恋人になってくれる人」
「恋人って言うな奴隷でしょ」
僕は彼女のことを、
モテるんだけど、それを見せないで
男をドキドキさせて楽しんでいる。
そう勝手に決めていた。
なんで、そんなことをしたのかって言うと、
最初は冗談でそんなことを言ったんだけど、
彼女がすごく喜ぶんだよね。
「そんなはずないでしょ」
と言うんだけど、そのときの彼女の笑顔。
すごくいいんだよね。
ついつい、その笑顔が気に入ってしまって、
似たようなことをよく言っていた。
それが女の性欲を刺激するなんて思ってもみなかった。
実は、後から知ったんだけど彼女って結婚していた。
ただ、旦那は浮気症で、ほとんど家に帰ってこない。
そんな状況にあって、そんな状況を忘れたくて、
仲のいい女友達と飲みにきていたんだ。
そこで僕と出会ってしまった。
当時の僕は誰にでも愛嬌をふりまく男だった。
それも、自分に自信がないから、
とにかく相手の反応に注意していた。
あくまでも目の前の相手を喜ばすことを
楽しくやっていただけ。
こういう存在って、いないんだよね。
特に夜遊びしている連中にはね。
もちろん、愛想のいい男はいくらでもいる。
でも、それは下心から出ているだけ。
僕には、別に下心がない。
下心で動いている男って、女からみると、
バレバレなんだよね。
相手によって対応が変わるから。
それだと女性から見ると、
出ているシグナルはこう。
「エッチがしたい」
このシグナルを女性が受けると、
女性の中ではゲームセット。
女性の勝ちってなる。
当時の僕は、エッチがしたいシグナルを出していなかった。
というより、出せなかった。
そんなことが起きるなんて意識がまったくない。
だから、出したくても出せない。
僕が出していたのは、
「あなた楽しませます」
シグナルだったと思う。
これは誰にでも出していたんだけどね。
同じようなシグナルは、マンションのモデルルームに行ったとき、
営業マンの方も一緒に行った恋人に出していた。
彼女の話を聞いて答えるとき、
ちょっと大げさなリアクションするんだよね。
彼女の喜ぶようにね。
あなた楽しませますシグナルがバリバリでていた。
ただ、営業マンだから、同時に、
マンション買ってシグナルも出ているんだけどね。
だから、そんなに効果はない。
でも、当時の僕は、
あなたを楽しませますシグナルだけ出していた。
同時に彼女にだけは、「モテモテいいなぁ」シグナルも出していた。
普通だったら、そのシグナルを出すと、
ゲームセットになってしまうはず。
彼女の方が僕よりも存在価値が高いって認めるシグナルだから。
だけど、「エッチしたい」シグナルがないから、
認めているのに、認めていない。
そんな中途半端なシグナルを彼女は受け取ってしまっている。
それが、彼女が混乱する要因だったんだ。
たぶんね。
彼女は僕と会った後、考えてしまうんだろうなぁ。
「ゆうちゃんってどういう人?」
あ、ゆうちゃんっていうのは、僕の源氏名ね。
夜遊びしてたころの呼び名。
僕って、自分の話はほとんどしない人だった。
だって、みんな人の話より、自分の話の方が好き。
だから、喜ばそうとすると、自然と相手の話になってしまう。
僕の正体は全然知られていなにかった。
だから気になってしまう。
僕が彼女に対して性的な魅力を感じているのかどうか。
それがシグナルが混乱しているから、
わからない・・・気になる。
その気持ちの動きをしちゃっているんだ、たぶん。
その状態で、ある日、僕はいきつけのカクテルバーの話をした。
彼女と会う居酒屋の近くにあるお店で、
その頃よく行くようになったお店。
そういうとさ。
女性とデートで使っているように思えるけど、
実はひとりで行ってたりする。
当時はデートするって考えはなかったから。
「すごく雰囲気のいいお店でさ。
マスターがリクエストするとオリジナルカクテルを作ってくれる」
そんな話をしたんだよね。
そしたら。
「今度つれていってよぉ~」
「えー、マキさんなら、つれていってくれる男いくらでもいるでしょ。
場所教えるから、誰かに言ってよ」
「ゆうちゃんにつれていってほしいの」
「うまいなぁ~、いま、ドキっとしてしまった。
それが男をこます手なのかぁ」
「ひどぉーい」
なんて、いつものように「男を惑われる悪女」パターンで
話をしていたんだけど、話の流れでふたりでそのバーに行くことになった。
僕からしたら、ただお店が違うだけの意味しか感じてなかったんだよね。
だけど、彼女にしたらデートなんだ。
初めての。
認識が違う。
そのお店の近くで待ち合わせしてやってきた彼女。
いつもおしゃれしている人なんだけど、そのときはいつもより気合が入っていた。
「今日はいちだんときれいですね」
なんて、ちゃんと喜ぶことを言ってあげて、
カクテルバーに。
まだ早い時間だったので、お客はぼくらだけ。
あとはマスターがひとりでカウンターに入っている。
僕はいつもカウンターで飲んでいたから、
その日も彼女とカウンターに座る。
さて、その場で僕はどんな話をしたでしょう。
答え。
いつもと変わらない。
「彼女、きれいな人でしょ」
「ええ、魅力的な人でよね」
「でしょでしょ・・・でもね、悪女なの」
マスターとそんな話をする。
「ひどーい」
「そんなことはないですよね」
「マスターはプロだから純粋な私がわかるのよ」
「だまされちゃ駄目ですよ、マスター」
「いやいや、彼女は違いますよ」
「あ、そうそう、マスター。彼女にカクテルあげて」
「どんなのがいいでしょう?」
「そうだなぁ、思いっきり強くて、それなのに甘くて。
色は、ちょっと暗めな赤。名前は悪女」
「なにそれっ」
なんて感じでね。
僕が彼女を悪女って主張する。
それを否定するマスター。
それに同調する彼女。
そんな感じで、あまりいつもと変わらない会話が続くんだ。
ただ、カクテルってちゃんぽんするんだよね。
いろんなお酒を飲むから酔ってしまう。
彼女はお酒つよいから、先にまわるのは僕。
「うーん、よっぱらった」
いつもの居酒屋だと座敷があるから、酔っ払うと横になられてもらうんだ。
だけど、カクテルバーじゃそうはいかない。
「そろそろ行きましょ」
彼女が気を利かせてくれて、お会計。
いつもと同じで割り勘で。
「ふー、酔っ払っちゃった」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「まだ時間早いね」
「どーしようかな。そうだカラオケ行こうっ」
彼女が歌が好きって話は聞いていた。
いつもの居酒屋にはカラオケないから、
聞いたことはないんだ。
だからカラオケボックスいくことにした。
そこなら横になれそうだし。
でも、横にはなれなかった。
カラオケボックスに入ったら、
彼女はキスしてきゃって、僕の局部触ってきて、
その上ジッパーおろしちゃう。
丸いドーム状のカメラついているんだけどなぁ~。
彼女は気づいていないけど。
さすがに鈍い僕も、状況がわかって、すぐにカラオケボックスを
出てホテルに行ったんだ。
当時の僕は、何が起きたのか良くわからなかった。
でも、今考えると彼女、性欲をバリバリ刺激するシグナルを
出しまくっていたんだ。
あ、勘違いしてほしくないんだけど、
彼女って、あまりエッチな人じゃない。
実際、その後付き合ったんだけど、
エッチをしたがるのは僕の方だった。
あんまりエッチするデートばっかりしている彼女おこってしまった。
元々、性欲があまりない彼女でも、
ぼくみたいなシグナルを出しまくると、
性欲が抑えられなくなってしまうんだ。
性欲を刺激するシグナル。
なんとなくわかってくれたかな。
残念ながら、今は僕でもこのシグナルは出せない。
いや、出すのはできるんだけど、
同時にいらないシグナルが出ちゃう。
「この人とエッチしたい」シグナル、ね。
そのシグナルが出た時点でゲームセット。
その女性の魅力に負けました、
ってことで、彼女の性欲は刺激されない。
理解していても、シグナル調整って難しいんだよね。

